コラム9 盲導犬クララの報道「朝日新聞新潟版」

避難所でも一緒、絵本になった盲導犬引退へ
2005年12月10日

 大好きな冬が来た。でも、ふたりで過ごすのは今年が最後だ。小国町(現長岡市)で中越地震に被災し、日本で初めて避難所に入った盲導犬クララ。パートナーの中村良子さん(57)とともに生きたが、足腰が衰え、来年5月に引退が決まった。ふたりの日々を、何かの形で残したい。思いは、絵本になった。

 絵本のタイトルは「震災にあった盲導犬クララ」。地震から1年がたった10月、全国の書店に並んだ。中村さんは、できあがった本を、真っ先に読んでもらった。

 初めて訪れた避難所の記憶がよみがえった。「この犬は訓練されています。ここにいてもらうことにします」。役場の職員の声に、拍手が起きた。「あの日は、生きてきて、一番感激した日です」。涙が流れた。

 本を構成したのは、ベストセラー「盲導犬クイールの一生」の作者、石黒謙吉さん(44)だ。「被災しても、クララと一緒に前向きに生きる姿に感動した」と話す。 残された日々を、かみしめるように、生きていきたい。本には、ふたりの、そんな思いがこもっている。

 中村さんは生まれつき、視力が弱く、24歳で完全に失明した。以来、30年以上付けている点字の日記。いつもは、数行で終わるのに、7行になった日がある。

 〈6月21日。電話で連絡があり、クララの引退の日が決まった。さみしい。でも、残りの日々で、思い出をいっぱい作ろう〉

 19年ぶりの豪雪を乗り越えた4月。クララは、玄関で転びやすくなり、縁側で横になる時間が増えた。すでに10歳。人間なら、60歳くらい。盲導犬の引退時期だ。さらに地震の影響で、精神的に疲れもたまった。

 盲導犬は、引退が決まると、パートナーから離れなくてはならない。8年前、初めて手にした盲導犬は、中村さんの手を離れた瞬間、2度と振り向かなかった。訓練された盲導犬は、飼い主が変わることも、すぐ理解できるのだ。「同じ別れは繰り返したくない」。中村さんは悩んだ。

 2週間考え抜いた。結果、役場に新しい盲導犬の申請書を出した。クララのことを思うと、仕方ないと思った。2カ月後、引退が正式に決まった。別れ。定めだと分かっている。でも、もっと一緒にいたい――。頭の中で、同じ言葉が何回も浮かんだ。

 そんな気持ちを晴らしたのは、クララだった。中村さんの胸の内を知るかのように、しっぽを振らず、ひざ元で横たわった。「この子も同じ気持ちなんだ。ふさぎ込んでちゃいけない」

 残された時間は少ない。けれど、前向きになろう。そう思えた。本は、中村さんがクララと生きた記憶をとどめておこうと、出版した。

 最後の冬。ふたりは、いろんな思い出を作りたいと考えている。「クララが大好きな雪の上で、思いっきり遊びたい。温泉にも一緒に行きたいな」。中村さんは、クララを抱きしめた。

文責:新潟あいゆー山の会事務局

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