24 短歌と作文

○ 短歌

 当会の第57回例会山行「平標山」での体験を詠んだ 上林洋子さんの入選作品です。

 春蝉

 耳鳴りかと歩を緩めれば平標山の裾野うずめて春蝉の鳴く

 これは「苗場ふれあいのさと」でのことです。車を降りた途端に、聞きなれない鳴き声に驚き、思わず立ち止まってしまいました。「春蝉が鳴いているんだよ」と諏訪さんが教えてくださいました。


 地面より湧き出ずるがに春蝉の鳴きいる中に登山靴履く

 その春蝉の鳴き声を聞きながら、登山靴の紐をしめなおしたり、ザックを背負ったり、登山の準備をしたのでした。


 平標登り来たりしこの宵を春蝉低く耳朶に鳴きいる

 なんとか落ちこぼれずに平標山を登ることができました。寝床に入っても、あの春蝉が耳のどこかで鳴いているのです。春蝉とともに眠りに就けるなんて、幸せいっぱい!あいゆーの皆さんに感謝です。


○ 作文

 新潟市福祉部障がい福祉課募集作文に入選した作文です

 心の輪を広げる体験作文(平成24年)

 天狗の庭のお花畑

 新潟市 上林洋子

 視覚に障害を持つ人も持たない人も共に山登りを楽しもうという「あいゆー山の会」では、真夏に二千メートル級の山に登ることが慣わしとなっている。今年は七月の終わりに視覚障害者三名を含む十五名のパーティーで、蓮華温泉ロッジからスタートし白馬大池の山荘で宿泊、翌朝下山するという企画で実施された。山の天気は変わり易いといわれるが、下山まで雷にも会うことなく高山の雰囲気を充分に味わうことができた。

 知人から「白馬はすごい山だよ」と聞き、密かに家の階段を利用してトレーニングをしていたものの・・・ 最初から瓦礫と岩場の連続、それにすごいアップダウンで、私の体力をはるかに超えたコースだった。とはいえ、途中でのダウンもできない。この会は視覚障害者に対して、前に一名、後ろから二名の会員がつくように班分けされる。全盲の私は前者のザックにつけられたロープを持って方向をキャッチし、もう片手で持ったストックで段差を確認して足を運ぶ。そして、後者からは「三十センチほどの岩場」「もう少し右足を前に出して」「右側が崖で切れているよ」などと声がけをしてもらう。時には「半夏生の白がきれい!」などという情報にうっとりさせてもらうことも。難所では、両手を引っ張ってもらったり、お尻を押し上げてもらったり、四つん這いで這い登ったり・・・。

 前者のザックにつけた誘導ロープとストックも放して、後者の指示に従いながら慎重に足を運んだゆらゆらの「梯子」はスリル満点だった。また、大きな一枚岩の上を乗り越えるときと、一歩間違えば谷に滑落しそうな個所を通過するまでの緊張感は、今、思い出すだけでも身震いがする。他のパーティーや登山者に山道を譲っている度に聞こえた彼らの軽快な靴音は、見えない私にとって神業にさえ思えた。

 急に空気の流れが軽くなり開けた感じがしたと思ったら「うわー!すごい!」とあちこちからあがる感嘆の声。そこは「天狗の庭」だった。一面に広がるお花畑、その先に続く雪渓、その周囲には北アルプスの山並みがくっきり見えるという。とにかく素晴らしい大自然のパノラマにしばしの沈黙。雪渓を渡ってくる風は汗びっしょりの体にひんやり心地良い。だが、お花畑だけは何の手応えもない。

 次の世は天狗になりてこの岩の上より見たしお花畑を

 私たちのパーティーは一般の登山者の倍以上もかかって、へとへと状態で大池山荘に到着した。この達成感は最高。生きていてよかった!この感動があるからこそ、視力を失った今でも山登りをやめることができない!ベンチで汗を拭いていると「雪渓に行ってみたい人」とリーダーの呼びかけに疲れも忘れて私は立ち上がった。10メートルも歩かないうちに冷たい空気と靴底の変化、正にそこは雪渓の上だった。雪の上なのに靴が埋まることもなく、今までに体験したことのない残雪の感触。その雪が溶けたすぐ際に柔らかな葉が伸び小さな花を咲かせている。そうか、天狗の庭でメンバーから上がった感嘆の声は、この花たちがもたらす大自然の素晴らしさだったのだ。リーダーのゴツイ手が「これがチングルマ、これがイワイチョウ」と小さくやわらかな花に触れさせてくれた。咲き終わったチングルマの綿毛や高山植物を守るために張ってある進入禁止のロープなど、かつて私の見たことのないものにもこの手で触れることができたのは何よりの心のお土産となった。

 山荘の中はとにかく暑く、なかなか寝付けない。10時過ぎに数人と外へ出てみた。物音一つしないという状態はこのことをいうのだろう、ひんやりと静まりかえった高山の夜気に思わず深呼吸。「星がきれいよ」うっとりしたメンバーの声。

 二千三百八十メートル白馬山
  冴え返る星のささやき 吾の耳眠らす

 翌朝も天候に恵まれ、他の登山客がスタートした後、私たちのパーティーも7時前に下山開始。いつものことだが「よくもこんなにすごい山道を登って来たものだ」と驚嘆の声があちこちから聞こえてくる。私は上りよりもこの下山が好き。だが今回は岩場や浮石が多く、パートナーの動きに集中し慎重に足を運ばなければ危険な難所だらけ。あのスリル満点だった「梯子」の難所も無事に通過できたときはニコニコ顔になってしまった。太腿がこわばり無意識に足が動いて、ちょっとでもアップの箇所があるとつまずきそうになる。もう惰性で蓮華温泉ロッジにたどり着いたときは正午近くだろうか。山荘で渡されたお弁当よりも、冷麺やアイスコーヒーが欲しいほど平地は猛暑だった。

 山道で多くの登山者とすれ違う度に「頑張ってください!」と励ましの声をかけられたことや、「こっちが切れていて危ないから先にどうぞ」と安全な山側を譲ってくれたボーイスカウトの団体。また、一人でも大変な登山コースなのに、視覚障害のハンディーを持つ会員をサポートして共に登山を楽しめる仲間たちとの出会いに感謝いっぱいの白馬大池登山だった。

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